世界の介護制度と日本の違い|保険の国、税の国、自助の国
日本の介護保険は、世界のどこにでもある制度ではありません。介護の費用を保険でまかなう国は少数派で、税でまかなう国も、そもそも公的な制度を持たない国もあります。日本の制度の輪郭は、ほかの国と並べたときにいちばんはっきりします。
介護のお金を誰が出すかで、大きく三つに分かれる
国ごとに制度の名前も手続きも違いますが、費用を誰が出しているかで見ると、三つの型に収まります。保険料を集めてまかなう型、税でまかなう型、そして本人と家族がまず出す型です。日本は一つめの型に属します。
どの型が優れているという話ではありません。人口の構成も、家族の住まい方も、税の重さも国ごとに違うので、同じ制度を持ってきても同じようには動きません。ただ、自分の国の制度がどの型なのかを知っておくと、報道で「北欧では無料だ」といった話に出会ったときに、何と何を比べているのかが分かります。
| 型 | 国 | 運営する主体 | 本人が払う分 |
|---|---|---|---|
| 保険でまかなう | 日本、ドイツ、韓国、オランダ | 市町村や公的な保険者 | 決められた割合を負担する |
| 税でまかなう | スウェーデン、デンマーク、イギリス | 基礎自治体 | 国や自治体の決めた範囲で負担する |
| 手当として出す | フランス | 県 | 所得に応じて負担が変わる |
| 本人と家族がまず出す | アメリカ、シンガポール | 州や政府の個別の制度 | 原則は全額。条件を満たすと公費が入る |
日本の介護保険は、ドイツの制度を下敷きにしている
公的な介護保険を世界で最初に作ったのはドイツで、1995年のことです。日本の介護保険が始まったのは2000年で、制度を組み立てるときにドイツのしくみが参考にされました。保険料を集めて要介護度を判定し、その区分に応じて給付するという骨格は、両国でよく似ています。
それでも、暮らしに関わるところでは違いがあります。もっとも大きいのは、給付を現金で受け取れるかどうかです。
現金で受け取れるかどうかが、いちばん大きな分かれ目
ドイツの介護保険では、事業所にサービスを提供してもらう代わりに、現金を受け取ることができます。受け取った人は、その現金で家族や近所の人に介護を頼みます。ドイツの法律(社会法典第11編)の第37条に、要介護度2から5と認められた人は現物の介護に代えて介護手当を申請できる、と書かれています。
日本の介護保険には、この現金給付がありません。 給付はサービスという形でしか出ません。家族が介護しても、そのことに対して介護保険からお金が出ることはないということです。
現金給付を置かなかったのは、制度を作るときの選択でした。現金を出すと介護が家庭の中に留まり、多くの場合は女性がその役を担うことになる。介護を社会で引き受けるという目的から遠ざかる。そうした議論を経て、日本はサービスで給付する形を選びました。
税でまかなう国では、自治体の判断がそのまま制度になる
スウェーデンとデンマークには介護保険がありません。費用は税でまかなわれ、提供する責任は基礎自治体が負っています。スウェーデンでは社会サービス法という法律がありますが、そこには誰にどれだけ出すかを定めた全国共通の基準が書かれていません。必要な人が良い暮らしを送れるように支援する、という枠だけが決まっていて、中身の判断は自治体に委ねられています。
日本の要介護認定のように、調査票と審査会を通して全国一律の区分を出すしくみは、この型の国にはありません。自治体の職員が面談と訪問で必要度を見立て、その判断がそのまま支援量になります。同じ状態の人でも、住む自治体によって受けられる支援が違うということでもあります。
デンマークは1987年に、いわゆる老人ホームを新たに建てることをやめました。年をとって手助けが要るようになっても、その人が住んでいるのは施設ではなく自分の住まいであるべきだ、という考え方から、住まいとケアを切り離したものです。介護が要る人向けの住宅も賃貸契約を結ぶ住宅として用意され、ケアはそこへ外から届けられます。
公的な介護保険を持たない国もある
アメリカには、高齢者の介護を対象にした全国一律の公的保険がありません。65歳以上のほとんどが入るメディケアは医療の保険で、長く続く介護は給付の外に置かれています。メディケアの案内にも、長期の介護には支払わないと書かれています。
実際に長期の介護を支えている最大の公費は、低所得者向けの医療扶助であるメディケイドです。ただし収入と資産の基準を満たさなければ使えないため、介護費で貯えを使い切ってから対象になる人が少なくありません。運用は州が担っていて、どこまで給付するかは州ごとに違います。
シンガポールは、働いている間に強制的に積み立てる口座を土台に置き、公費は最後に回すという組み立てです。介護については2020年にCareShield Lifeが始まり、重い障害の状態と認められると亡くなるまで毎月現金が出るようになりました。サービスではなく現金を出す形なので、使い道は本人と家族が決めます。
自己負担の割合を、そのまま比べない
日本の自己負担は所得に応じて1割から3割です。韓国は在宅で15パーセント、施設で20パーセントと決まっていて、数字だけを見ると日本より重く見えます。ただし何が保険の対象に入っているかが国ごとに違うので、割合だけを並べても比べたことにはなりません。
フランスのAPAは、割合を全員同じにするのではなく、所得が低ければ負担なし、高くなるにつれて自分で出す割合が増える形をとっています。イギリスは資産と所得を調べたうえで負担額を決めるため、資産が一定額を超える人は全額が自己負担になります。「何割負担か」という問い自体が成り立たない国があるということです。
また、施設に入ったときの部屋代と食事代は、多くの国で保険や公費の対象から外れています。日本でも同じで、施設の費用のうち居住費と食費は原則として自己負担です。所得が低い場合に軽くなるしくみは別に用意されています。
高齢化の進み方で見ると、日本はどこにいるのか
制度の話をする前に、前提となる人口の姿を並べておきます。次の表は、国連人口部の世界人口推計(2024年版)にもとづく2024年の値です。
| 国 | 65歳以上 | 75歳以上 | 平均寿命 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 29.8% | 17.2% | 84.9年 |
| イタリア | 24.6% | 12.8% | 83.9年 |
| ドイツ | 23.2% | 11.4% | 81.5年 |
| フランス | 22.1% | 10.8% | 83.5年 |
| デンマーク | 20.9% | 10.4% | 82.1年 |
| スウェーデン | 20.7% | 10.7% | 83.4年 |
| オランダ | 20.5% | 9.5% | 82.3年 |
| イギリス | 19.5% | 9.6% | 81.4年 |
| 韓国 | 19.3% | 8.0% | 84.4年 |
| アメリカ | 17.9% | 7.6% | 79.5年 |
| シンガポール | 13.7% | 5.2% | 83.9年 |
国連加盟193か国のうち、65歳以上の割合が日本より高い国はモナコだけです。人口が4万人に満たない都市国家なので、実際に人が暮らす規模の国としては日本が世界でいちばん高齢化しています。日本の制度が抱えている課題は、他の国がこれから通る道でもあります。
韓国は割合ではまだ日本より低いところにいますが、進み方は日本より速いと見られています。2008年に老人長期療養保険を始めたのも、その速さに間に合わせるためでした。
ほかの国と比べたとき、日本の制度はどこが手厚いのか
日本の介護保険には、他の国と比べてはっきりした特徴があります。ひとつは、要介護認定という全国共通の物差しがあることです。どこに住んでいても同じ調査票と同じ審査の手順で区分が決まるので、引っ越しても認定がそのまま引き継げます。税でまかなう国では、この共通の物差しがありません。
もうひとつは、ケアマネジャーが計画を立てる役を担っていることです。どのサービスをどれだけ使うかを本人や家族と話し合ってまとめる専門職が制度の中に位置づけられている国は、多くありません。
一方で、現金給付が無いこと、施設の居住費と食費が自己負担であること、そして介護する家族への直接の手当てが介護保険の中に無いことは、他の国と比べたときの日本の制度の限界でもあります。
- 介護保険がある国とない国では、どちらが負担は軽いのですか
- 一概には言えません。介護保険がない国でも、スウェーデンやデンマークのように税でまかなっていて本人の負担が軽い国があります。逆に、公的な制度が細くて本人と家族の負担が重い国もあります。保険があるかどうかより、費用のどこまでを公が持つかで決まります。
- 日本でも、家族が介護したらお金がもらえる制度はできますか
- 現在の介護保険には現金給付のしくみがありません。制度を作るときに、現金を出すと介護が家庭の中に留まるという議論があり、サービスで給付する形が選ばれた経緯があります。働きながら介護する人への支えは、介護休業と介護休暇という形で労働法の側に置かれています。
- 海外に住んでいる親を、日本の介護保険で介護できますか
- できません。介護保険は市町村が保険者で、その市町村に住民登録があることが前提です。日本国内で受けるサービスに対して給付されるしくみなので、海外で受けた介護の費用は対象になりません。
- 外国籍でも日本の介護保険は使えますか
- 使えます。介護保険は国籍ではなく住んでいることを条件にしています。市区町村に住民登録があり、年齢の条件を満たしていれば、日本国籍の人と同じように加入して同じように使えます。
この記事の出典
- 厚生労働省介護保険制度の概要2026-08-22 確認
- デジタル庁 e-Gov法令検索介護保険法(平成九年法律第百二十三号)2026-08-22 確認
- ドイツ連邦司法省SGB XI §37 Pflegegeld für selbst beschaffte Pflegehilfen2026-08-25 確認
- ドイツ連邦保健省Pflege2026-08-25 確認
- スウェーデン社会庁Äldre2026-08-25 確認
- オランダ政府 法令データベースWet langdurige zorg2026-08-25 確認
- フランス政府 Service-PublicAllocation personnalisée d'autonomie (Apa)2026-08-25 確認
- 英国法令データベースCare Act 2014, Section 1: Promoting individual well-being2026-08-25 確認
- 英国政府 GOV.UKApply for a needs assessment by social services2026-08-25 確認
- 米国メディケアLong-term care coverage2026-08-25 確認
- 厚生労働省介護休業(介護休業制度特設サイト)2026-08-22 確認
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